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エッセイ


きのうの子どもたち、そして未来のおとなたちへ



あのねママ

ボクどうして生まれてきたのかしっている?

ボクね ママにあいたくて

うまれてきたんだよ

(「ママ」田中大輔(3歳):川崎洋編「子どもの詩」より)



 そうして生まれてきた君たちに、今の時代のお父さんやお母さんは、ほんとうに、こんな世の中にしてしまってごめんなさい、と頭を下げてあやまりたい気持ちです。でもあやまろうとして頭を下げると、涙が落ちてしまうので、ぐっとこらえて、「こんな世の中」をどうしたらいいのだろうと毎日かんがえて、上のほうを向くようにしています。

 知っていましたか? これからのことをかんがえようとすると、おとなというのは、天井をみあげるものなのです。そうすると、天井のむこうには、青い青い空が広がっています。空が青いと、なんだか未来もうまくいくように思ったりするのです。

 でも、その青い空、とりわけきりりとした冬の空気によって、透明な青に染められていた君たちのふるさとの空が、わたしたちがつくりだした放射能という怪物のために、目にはおなじ青い空のようにみえていても、これまでとは違った空になっているのです。だから、これまでと同じように未来がうまくいくとは、なかなか思えなくなってしまったのです。

 放射能は、大丈夫、何も心配することはない、いや、とても危険でほんとうはそこにいてはいけないと、日本中のおとなたちは、てんでんばらばらなことを言っています。もしかしたら、そんなおとなたちの言いあらそいをあの日からずっと聞きつづけて、君たちはもうすでに、この国のおとなたちは、じつは自分たちのことしか考えていないのではないかと思っているかもしれません。

 その半分は正しくて、でも、もう半分はきっとちがいます。おとなだって、これからどうなるのか何もわかっていなくて、放射能についてもどうしていいかわからず、ほんとうはオロオロしています。この国の多くのおとなたちが、そんなことを考えるのをやめたり、こわがっているのをかくそうとしたり、無理にも元気をだそうとして、みっともないことばかりやっています。

 それでも、君たちのお父さん、お母さん、そしてまわりのおとなたちは、いろいろと悩み迷いながらも、じぶんたちがつくってきた人とのつながりと、そこから得られる日々の仕事を大事にして、君たちの育ったこの土地や家で暮らしていこうと決心しています。そして、君たちに健康であかるい未来をのこしたいと願って、今日も毎日毎日たたかっています。そういうおとなたちが、いるのです。

 そして、そういう悩みや苦労は、君たち福島や東北に住む人たちだけのものではありません。ほんとうは、おなじことが日本中で起こってきました。これまで、そんなことに目を向けたことがなかっただけなのです。目をむけずに、何のためかもちゃんと考えないまま、ただただはたらきつづけてきたのです。


 ここに一枚の絵があります。この絵は、「After the acid rain」といって、にんげんが自然を壊して雨を汚してしまった後の世界を描いています。作者の奈良美智さんじしんが詩をよせています。



酸っぱい雨が降っている

海にも山にも降りそそぐ

街にも森にも降りそそぐ

魚たちは嫌な顔をして

花たちは嫌な顔をして

静かに雨は降っている


NARA48 GIRLS
(奈良美智著 2011 筑摩書房)
より抜粋




 わたしたちはみんな、今、この絵の背景のように泥にうまった世界に住んでいます。このおんなの子は、そんな世界にしてしまったおとなたちにうたがいの目をむけています。叫びはしないけど、信用しないぞと言っています。でも、彼女は自分でしっかりと立って、目を開いて大きな瞳をかがやかせて未来をみつめています。

 子どもらしく明るく無邪気な話ではないですね。こんな話を子どもにしていることを、ふさわしくないと言って怒る人もいるかもしれません。子どもはみんな元気で明るくて悩みがないものだ、おとなたちは無理にでもそう思おうとしてきました。でも、今回の震災と原発事故で、わたしたちの住んでいる世界は変わってしまいました。

 おとなたちはおとならしくふるまっていたけれども、ほんとうは何もしらない子どものままであったことがばれてしまいました。君たちも、やがて、この絵のおんなの子のように、いろいろなものをうたがい、怒り、悲しまないといけないのかもしれません。きのうまでの、おとなにすべてまかせていた子どもっぽい子どものままではいられないでしょう。

 だから、わたしたちはみんな、未来のおとなです。

 今、日本中で、夏休みや春休みを利用して、君たち福島や東北の子どもたちが思いきり走りまわれて、どろんこになって、水に飛び込んで自由に遊べるような旅行やキャンプが、さまざまな考えをもっているおとなたちによって、いくつも行われています。わたしたちが八丈島で君たちとおこなった「福八子どもキャンププロジェクト」も、そのひとつです。こういうことが日本中にいくつもあるということは、頼りないくせにいばってばかりいて、いつもケンカや言い合いばかりしていて、こんな大変なことを起こしていながらお金ほしさに原発を止めることすらできないおとなたちがつくった世の中で、それでも君たちに元気でいてほしいと思っているおとなが、たくさんいるということです。

 そのような人たちと、君たちがどんどん手をつないでいって、この国、この世の中のたくさんのものを見て感じてほしいと思います。君たちがおとなになるころになっても、いろんなことの何がまちがいで何が正しいかとか、どんな社会や国になったらいいのかとか、そんないつまでも決着のつかないことで、あいかわらずあらそってばかりいるかもしれません。でも、君たちが君たちのことを大切に思っている人たちとしっかりと手をつないでいれば、ほんとうに大切なのは、人が人を信じられることだということを、いつか誰もが思う世の中がくるのだと、わたしたちは信じているのです。


文:高木俊介(ACT−K代表)

絵・詩:奈良美智




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