そうして生まれてきた君たちに、今の時代のお父さんやお母さんは、ほんとうに、こんな世の中にしてしまってごめんなさい、と頭を下げてあやまりたい気持ちです。でもあやまろうとして頭を下げると、涙が落ちてしまうので、ぐっとこらえて、「こんな世の中」をどうしたらいいのだろうと毎日かんがえて、上のほうを向くようにしています。
知っていましたか? これからのことをかんがえようとすると、おとなというのは、天井をみあげるものなのです。そうすると、天井のむこうには、青い青い空が広がっています。空が青いと、なんだか未来もうまくいくように思ったりするのです。
でも、その青い空、とりわけきりりとした冬の空気によって、透明な青に染められていた君たちのふるさとの空が、わたしたちがつくりだした放射能という怪物のために、目にはおなじ青い空のようにみえていても、これまでとは違った空になっているのです。だから、これまでと同じように未来がうまくいくとは、なかなか思えなくなってしまったのです。
放射能は、大丈夫、何も心配することはない、いや、とても危険でほんとうはそこにいてはいけないと、日本中のおとなたちは、てんでんばらばらなことを言っています。もしかしたら、そんなおとなたちの言いあらそいをあの日からずっと聞きつづけて、君たちはもうすでに、この国のおとなたちは、じつは自分たちのことしか考えていないのではないかと思っているかもしれません。
その半分は正しくて、でも、もう半分はきっとちがいます。おとなだって、これからどうなるのか何もわかっていなくて、放射能についてもどうしていいかわからず、ほんとうはオロオロしています。この国の多くのおとなたちが、そんなことを考えるのをやめたり、こわがっているのをかくそうとしたり、無理にも元気をだそうとして、みっともないことばかりやっています。
それでも、君たちのお父さん、お母さん、そしてまわりのおとなたちは、いろいろと悩み迷いながらも、じぶんたちがつくってきた人とのつながりと、そこから得られる日々の仕事を大事にして、君たちの育ったこの土地や家で暮らしていこうと決心しています。そして、君たちに健康であかるい未来をのこしたいと願って、今日も毎日毎日たたかっています。そういうおとなたちが、いるのです。
そして、そういう悩みや苦労は、君たち福島や東北に住む人たちだけのものではありません。ほんとうは、おなじことが日本中で起こってきました。これまで、そんなことに目を向けたことがなかっただけなのです。目をむけずに、何のためかもちゃんと考えないまま、ただただはたらきつづけてきたのです。
ここに一枚の絵があります。この絵は、「After the acid rain」といって、にんげんが自然を壊して雨を汚してしまった後の世界を描いています。作者の奈良美智さんじしんが詩をよせています。
|